ヴァナ・ディール紀行 戦士の心得

 その男に出会ったのは、旅立って1週間ほどたった頃か。
 旅立ったといっても、私たちはウィンダスを拠点としており、いまだ、遠出をして家に戻る生活を繰り返していた。旅に出たと言うよりは、遠出をしていると言うのが正しい。
 しかし、世の中は現在混沌としている。それ相応の実力が無ければ歩くことも許されないのだ。
 実力を磨かなければ、決められた枠の中で生きるしかない。その枠の中もいつまで安全かなどと言う保証は無い。
 私とレダはギデアスと呼ばれる谷に頻繁に足を運んでいた。世は混沌としており、ウィンダスは国を挙げて冒険者と呼ばれる人々を支援していた。より、腕のいい冒険者と認められるには、国から依頼された仕事をこなさなくてはいけない。ギデアスに出向いたのも冒険者としての仕事の一環であった。
 ギデアスはヤグードと呼ばれる鴉を大きくしたような獣人たちの住処だ。ただ、彼らはウィンダスと同盟を結んでいる。それでも気性の荒い彼らによって年間何百人と言う犠牲者が生まれている。そんな危険な獣人達の根城に使いを出すのは国としてもひどく困難なことであった。我々の仕事は、その使いを果たすことであった。ただ、物品を届けるだけであるのに、それは命がけの任務となった。
 そのギデアスで、私たちは窮地に陥っていた。
 3匹のヤグードに襲われて逃亡を続けていたのだ。
 それをとっさに救ってくれたのが彼であった。
 そのヒゲを蓄えたヒュームは、獣人たちに向かって、大きなポーズをとってアピールする。怒りに我を忘れている獣人の1匹は彼に向かって一目散に走り出した。
 私もそれなりの剣を扱えるし、レダは斧を得意としている。1匹ずつが相手ならば、ヤグードどもに引けは取らない。
 私たちが1匹ずつ、ヤグードを始末した頃には、もう一匹のヤグードも血祭りに上げられていた。
 3人のうち、もっとも脆弱な私はひどく傷ついており、また、魔法を使う気力すら残っていなかったため、その場にしゃがみこむしかなかった。
「すまない、助かった」
 ヒュームに向かってレダは頭を下げる。ヒュームの男は礼を受け取りながらも、こう言った。
「お前も戦士ならば、仲間を守るすべを身につけろ。俺がやったように敵を怒らせ自分にひきつけるんだ。魔道士達を敵から守ることこそが、集団戦に於ける戦士の役割だ。戦士ならば、仲間のために真っ先に死ぬことを覚悟しろ」
 彼は厳しい口調で、レダにそう告げ、足早に去っていった。
 それからしばらくして、東サルタバルタで、ある3人組に出会った。タルタルの魔道士二人とミスラの戦士だ。ミスラ族はその俊敏な動きで敵を翻弄するものの、攻撃で決め手にかける。モンスターたちは、彼女よりもより驚異的で強力な魔法を駆使する魔道士を狙っていた。ミスラの戦士は必死に彼らを守ろうとするも、そんな彼女をあざ笑うかのように、モンスターたちは彼女を避け、魔道士たちに襲い掛かっていた。
「エリック。行くぞ」
 それを見たレダは、彼らに一気に接近し、モンスターたちを威嚇するように両手を広げた。
「こっちだ、こっちに来い!」
 激しい怒鳴り声と大きな身振り、そして全身から発する闘気に反応したモンスターはレダに向かい走り出す。
 しばらくして、複数のモンスターたちは全滅し、3人組もかろうじて生き延びていた。無論、私とレダも無事であった。
「たすかったにゃ」
 そう、ミスラの戦士がレダに礼を言う。ふと見ると、タルタルの魔道士たちは、疲れ果てたかのようにその場に座り込んでいる。
 はて、どこかで見た光景だ。
 そんなミスラの戦士に向かい、レダはこう継げた。
「貴様も戦士ならば、仲間を守るすべを身につけろ。私がやったように敵を怒らせ自分にひきつけるんだ。魔道士達を敵から守ることこそが、集団戦に於ける戦士の役割だ。戦士ならば、仲間のために真っ先に死ぬことを覚悟しろ」
 それは、数日前に、助けてもらった教えであった。
 私の顔は思わずほころんだ。
 ミスラの戦士はレダの言葉を神妙な面持ちで聞いていた。
 言うことだけ言って立ち去ろうとするレダの後を追いながら、私は思わずにやけてしまう。
「何がおかしい」
 レダは憮然とした表情だった。
「いや、こうやって、教えってものはどこまでも広がっていくんだなって思ってね」
 かつて自分が学んだことをそのまま伝えていく。こうして、戦士の意思は受け継がれていくものなのだ。



 今回のテーマは挑発。
 FF11の前衛で最も重要なアビリティ。
 前衛の誇りとして、どんなピンチでも魔道士よりは先に死ぬと言う心得。
 といっても、挑発というアビリティの言葉そのものを使いたくなかった。
 私が、挑発の使い方を覚えたのは初PTを組んだ時だが、組んだ人に「定期的に挑発してくださいね」と言われたのがきっかけだ。
 といっても、そのまま文章にしてもゲーム的で面白くない。
 そこで、ピンチに助けられてそれを広げていくと言う形に纏めてみた。
 さて、どんなもんでしょう?

 ヴァナ・ディール紀行は昔富士見文庫であったようなモンスターの本やアイテムの本みたいな感じで、その何かにスポットを当てた形でやっていこうかなと思ってる。
 しばらくはジョブ初級編かな?
 高レベルの戦士に関してもいずれ書きたいと思うけどね。
 あと、話の順番は前後します。いきなり、高レベルのレダとか出てくる話もある予定。
 まあ、1話読みきり形式を守りたいので問題ないと思うけど。