おじさん

 帰りの交差点で信号待ちしてたら白髪のおじさんに声をかけられる。おじいさんといってもいいかもしれない。
 財布落としたから300円貸してくれとのことだった。
 おじさん曰く、
「財布を落としてここまで歩いてきた」(ただし、どれだけの距離を歩いてきたかは不明)
「300円あれば相模大野まで帰れる」(微妙に足りない気がするのは気のせいか?)
「住所と名前と教えてくれれば必ず返す」(あてにならない)
 とのことだった。
 おじさんの見た目は別に特にみすぼらしくない。物乞いの類ではなさそうだった。もっとも、そこの交差点から10分も歩かないで相模原駅に着く。だから、俺はそこのそばに交番があるから、交番で借りるといいのではないかといった。というのも、俺も高校時代財布を落として交番でその届出を出すついでに帰りの電車賃を借りたことがあったからだ。身元さえはっきりしていれば警察は小額なら貸してくれるのである。
 おじさんは歯切れ悪い返事をして歩いていってしまった。俺も駅前のゲームショップに行くために同じ方向だったのだが結局おじさんは違う方向に行ってしまった。
 やっぱり物乞いの類だったのだろうか。どちらにせよ、情に任せて貸さなくてよかったと思っている。
 300円程度痛くはないが、住所や名前を教えるのはやはり気持ち悪いし。
 人は見かけによらないものだ。あのおじさんはああやってあちこちからお金を借りて歩いているのではないかと思う。
 つうか、訂正。
 何を訂正したかは、わずかな間に見てた人だけ知っている。
 物乞いか、そうでないかを知っているのは、そのおじさんだけということだ。