1018年11月 朱雀門の双仁王
大江山の鬼どもを避けてようやく3人は門の前にたどり着く。
「立派な門ですね」
「そうだな」
「鬼の気配は無いね。いったん、休憩しようよ」
娘の提案に、鬼切丸は頷く。
ここまで、雪山を半ば走るように駆け抜けたため、3人とも相当に疲労していた。
術で体力を回復したあと、豊代と夕顔は門の前に立って見上げていた。
「朱雀門・・・」
門に掲げられた字を豊代が読み上げた。
「朱雀門って、京にもあるよね」
「ええ、四神の一柱で、南に位置する神様だから。大陸の都を真似て作られた平安京と同じく、この門も大陸の都市を真似て作られているのね」
「じゃあ、ここは、都なの?」
妹の素朴な疑問に豊代は答えられない。ただ、門の規模からも、左右に構える門番たる仁王像も京にあるそれと比べて見劣りするどころか勝っているとすらいえる。特に仁王像などは、今にも動き出しそう・・・。
「二人とも、危ない!」
父の声にはじかれるようにその場から二人は飛びのいた。
二人の立っていた場所に、仁王像の足が振り下ろされていた。
「通さぬぞ・・・」
太った仁王像が低くつぶやく。
「通さぬぞ!!」
痩せた仁王像が声高に吼える。
「鬼の、門番?!」
「お父様!」
娘の狼狽を叱咤するように鬼切丸が叫んだ。
「二人とも! 殺るぞ!」
その雄たけびを合図に、双仁王と新京極家の戦いが始まる。
「推し通る!!!」
「ここは通さぬ!」
痩せ仁王がその長い手を生かして、金棒を振り回す。
「ぐ・・・」
「きゃ・・・」
その一撃は、鬼切丸と豊代を巻き込む形となった。
そして、追い討ちをかけるように太り仁王が体重のたっぷり乗った一撃を振り下ろす。
「結界印」
だが、その攻撃より早く豊代と夕顔が結界印を掲げた。
太り仁王の一撃は瞬時に現れた鬼切丸の陽炎を叩き潰すだけにとどまった。
「はあああああああああ」
体勢を立て直した鬼切丸は、精神を集中させ、自らの武器を強化する。それにあわせるように、二人も武人の術を鬼切丸にかけていった。
太り仁王が見た目以上にすばやい攻撃を繰り出す。が、それは鬼切丸の陽炎を捕らえるにとどまる。
「食らえ!」
一撃をかわしざまに逆胴を叩き込んだ。
その巨漢がわずかによろめく。
「効いてる?!」
夕顔が歓声を上げる。確かに、強化された一撃は岩より硬い鬼の皮膚を貫いたものの、致命傷には程遠い。今と同様の一撃をあと3回は最低叩き込む必要がありそうに思えた。
「お父様、回復を」
豊代はお雫の術で、鬼切丸の傷を癒していく。
「もう一撃!」
鬼切丸は再び刀を振り上げた。
「な・・・」
しかし、突然、足がぬかるんで足が止まる。
「これは・・・」
痩せ仁王の放ったみどろの術の効果で、新京極家の足元がぬかるんだのだ。
「この程度で!!」
それにかまわず、鬼切丸は太り仁王に一撃を叩き込む。巨体から血しぶきが上がり、巨体は膝をついた。
「このまま押すぞ!」
「はい!」
「わかった、お父さん」
二人は太り仁王に叩き込むように攻撃を繰り出した。
しかし、
「え、前が見えない」
霧のようなものが突然3人の視界を遮る。
「夢子の術か」
再び繰り出された鬼切丸も闇雲に振るわれるのみで、仁王を捕らえるに至らない。
「手数を増やすぞ!」
「はい!」
豊代が夕顔に武人の術を施していく。この3人で一番高い破壊力を持つのは鬼切丸だが、夕顔もそれに匹敵する実力を身につけつつある。
強化された弓の一撃はすさまじい貫通力で太り仁王の腹に突き刺さった。
「後1撃!」
痩せ仁王の攻撃をかいくぐった鬼切丸が、太り仁王に攻撃を仕掛ける。
「な!」
しかし、瀕死だったはずの太り仁王の傷が見る見るとふさがっていった。
「回復の術か」
新京極一族が未だ使えないお地母の術だ。それでも、傷は完全にいえるほどの回復力は無い。
鬼切丸は、回復していく太り仁王の左肩に渾身の一撃を叩き込む。
切りつけた先から肉が盛り上がり、仁王の肉体は回復していく。
「おおおおおおおおおおおお」
鬼切丸が吼えた。
全体重を刀に預け、押し返された刃を太り仁王に再び埋め込んでいく。
刀が仁王のヘソあたりまで押し込まれたあたりで、ようやく、太り仁王は動くのを止めた。
「お父様!」
豊代の呼びかけで、痩せ仁王の一撃が迫っていることを悟る。
しかし、深く肉に埋め込まれた刀が抜けない。鬼切丸は刀から手を離して、転げるようにして、一撃を避けた。しかし、無手になった鬼切丸に痩せ仁王は容赦なく攻撃を加えていく。
みどろの影響で動きの鈍くなった鬼切丸は、ついにその一撃に捕らえられた。
「ぐ・・・」
強烈な横殴りの一撃を食らい、門扉に叩きつけられて呼吸が止まる。ぼやけた視界の先には痩せ仁王の不敵な笑みがある。
その長い腕が振り下ろされる。
ギン!!
金属と金属が噛み合う音が響いた。
「お父様をやらせはしません」
仁王と鬼切丸の間に、豊代が立ちふさがって痩せ仁王の一撃を受け止めていた。
「夕顔! 援護を!」
「わかってる」
夕顔が痩せ仁王に矢をどんどん打ち込んでいく。
鬼切丸は娘に手間取る痩せ仁王の脇を駆け抜け、太り仁王に突き刺さったままの刀に手を伸ばした。
「ああーん、当たらない〜〜〜」
夢子の影響下にある、夕顔は未だに攻撃がまともに当たらない。その間に、豊代は痩せ仁王にどんどん追い詰められていく。
「おねえちゃーん」
援護にならない攻撃を夕顔はひたすら繰り返す。
しかし、確実に豊代は追い詰められていた。
「く、もうだめ・・・」
そう思ったとたん、痩せ仁王の動きが止まった。
「へ・・・」
そして、ゆっくりと痩せ仁王が倒れこんでいった。
「大丈夫か? 豊代」
「あ、はい」
差し出された父の手を掴んで立ち上がりながら、痩せ仁王を見た。背中から心臓の辺りにかけて、刀が突き立っている。
「お父様が助けてくれたの?」
「まあ、さっき助けられたしな」
そっぽを向きながら鬼切丸は答えた。
「しかし・・・」
そのまま強引に話題をそらす。
「門番でこの強さか。朱点はどれほど強いんだろうな」
そらされた話題は、見たくない現実であった。
門番の仁王との戦いで、既に3人は満身創痍になっていた。
「行くぞ」
それでも、朱点の元に向かう足は止まらない。
3人は決死の形相で、朱雀門を潜った。
煙る雪の先には朱点閣がうっすらと見えていた。
正直、仁王でこんなに苦戦してどうするんだというくらい苦戦したわけで。話には絡めてないけど、光無しはくらうし、みどろくらうし、夢子で攻撃当たらなくなるし。
お地母で回復されたし。
結界印の効果も切れるし。
脚色はしてるけど、苦戦したのはすっごい事実。
朱雀門って名前は無いけど、その後に続くのが朱雀大路なので多分そうだろうなと勝手に名前をつけてみたり。