スキヤキウエスタン ジャンゴ

 地雷臭漂うこの映画を見てきた。
 結論から言うと、非常に面白い。ただし、面白いのは俺だけかもしれない。ほかの人はきっと1800円払って損したと思ってる気がするなあ。
 どんな内容かというと、1950年代の、ウエスタン映画と用心棒者の時代劇を足して割らない感じ。お宝、夜盗、復讐、狂気、それらをごちゃ混ぜにして、狂言回しとなる流れ者が村に現れることによって平衡が崩れて物語を回していく。まさに、お約束が詰まりに詰まった物語。ただし、舞台が物語で源平合戦から数百年後という設定なのに、ウエスタンが混ざっているというのが特徴。
 しかしまあ、この映画、2時間いらない。1時間でまとまる。とにかく、過去編に時間を割いてるので、序盤主人公出てこない。過去編でひたすら清盛&ヘンリーこと佐藤浩市が暴虐の限りを尽くすだけ。いや、これはこれで面白いし、物語を語るのに必要っちゃあ必要なのだが。とにかく、佐藤浩市がはっちゃけすぎ。この人、大抵普通のドラマだといい役与えられるのに、これだけ悪でしかもどちらかというと山賊の親分、子悪党、RPGだったら最初のボスといった役割なんてのは珍しい。にもかかわらず、佐藤浩市大暴れ。役者魂というか、実は楽しんでやってるのか。一方で、ラスボスになる義経は強すぎるために敵がおらず敵を求めるどちらかというとストイックな悪役なため、見せ場はあるが、清盛ほど面白くない。この話全体にある泥臭さがこいつにだけはないんだよな。それゆえのラスボス何だが。
 しかし、何かあるなと思わせる具合に出てきた桃井かおりはやっぱりなんかあった。やべえ、お約束すぎる。師匠がクエンティン・タランティーノとか、アホか。桃井との子供の名前がアキラでその後に実はアニオタなんだと告白。知ってるよ!!!!。AKIRAから取ったというネタなんだろうが、今日見に来てた人は何人このネタわかるんだ。っていうか、このおっさんの暴走を誰か止めろよ。

 伊藤英明演じる主人公は、凄腕の流れ者って設定と、僅かに過去をにおわせる設定のみで、完全に狂言回しに徹している。かき回して、一度敗れて、最後に大決戦、ラスボスと一騎打ちとお約束の流れを踏んで最後に残された最後の一人にお宝を残して去っていく。もういう必要も無いくらいお約束。でも、実はこいつ主人公じゃないんだよなあ。狂言回しに徹しているといっていい。ちなみに、ジャンゴというのは主人公の名前ではない。最初から最後まで名前が明かされない。それこそが彼の役割を示している。

 義経:正当なラスボスとはいえないだろう。普通のこの手の悪漢が暴れまわるタイプの映画のラスボスではない。どちらかというと、ニトロプラスのラスボスとかそんな感じ。卓絶した剣技と銃の腕前を持ち、しかし、強いものがおらず自分の強さをもてあましている。故に、実力を見せた伊藤英明に興味を示し、どちらかというと味方として取り込むより、敵として戦いたいという雰囲気をかもしだす。なので、細部細部では活躍するのだがイマイチ影が薄い。しかし、最後雪に沈む村での主人公との一騎打ちはよかった。ウエスタンなので、銃VS銃のクイックドロウ対決に見せかけて、おもむろに銃を捨てて刀で伊藤英明に切りかかる。銃VS刀というのは日本のドラマでもあるだろうし、アニメやラノベ、漫画の世界では普通にある。この手の一騎打ち系になると、刀が銃にかつケースが多い。この場合も案の定、伊藤英明の銃弾を弾き飛ばしながら接近し、刀は銃で受け止められる。主人公万事休すと思われたとき、主人公の左腕袖口から出てきた隠し銃が飛び出してきて・・・。最後ににやりと笑った後撃ち殺される。ラストバトルを引っ張らず一瞬でまとめたのもよかったし、刀を拳銃で受け止められるものの、拳銃の半ばまで刀が食い込んでいるというのも良かった。無駄な会話が無いのも、この監督わかってるよなあ。とにかく、ツボに入りまくりのラストバトルだ。
 ちなみに、義経のシーンで笑ったのは、金玉2個失ってホモに目覚めた石橋に襲われた時の狼狽振り。かっこよかったのはラストバトルと、ガトリングガンを持って逃げようとする佐藤浩市を拳銃で狙撃するシーン。なんと、風を呼んで、銃身を明後日の方向に向けて撃つというのがよかった。それがバンバン当たる。すげえ、そういう発想は無かったよ。思わず笑いつつも感心してしまった。

 清盛:佐藤浩市の悪党。村を荒らしまくり、ヒロインの娘の旦那を撃ち殺し、ヒロインの娘をレイプしようとしたりと散々悪事の限りを尽くす。源氏に押されて劣勢になったあとは平家物語からヘンリー6世に乗り換えて、ヘンリーに改名したり、すげえおばかな行動が目立つ。また、源氏と対立した場合も部下の背に隠れたり、堺雅人演じる重盛の背に隠れて「もっと太れよ」といったりと、言動行動全てがおばかで楽しすぎる。その上で自分だけ服の下に鉄板を仕込み自分を助けようとした重盛を見捨てたりと、小悪党のせこさとしぶとさを見事に演じきっている。本当に楽しそうに演技してるよ。

 ルリ子:ただの酒場のババァと思いきや、実は伝説のガンマン、ブラッディ弁天であり、映画冒頭で出てきたクエンティン・タランティーノの弟子であり妻。村に戻って普通に暮らしてたら、息子が嫁さんつれて帰ってきた。それを喜んでたら息子は殺され村はボロボロ、それでも銃を取らずに傍観者を続けていたが、義娘の死の直前、主人公と孫の命が危うくなった時に覚醒し、敵を皆殺し。さっさとやれよと突っ込みたかったけど。復讐のために再び銃を取り、息子の仇であるガトリングガンをもって暴れまわる清盛を圧倒的な銃の実力で殺す。しかし、復讐に夢中になっている時に思いもよらない雑魚に殺されてしまう。実はこの話のヒロイン。もっともラブストーリーは主人公ではなく、一見モブ、しかし実はかっこいいところ見せる幼馴染のトシヲとだったりするが。トシヲは村を出て戻ってきた時は子供がいたりしたルリ子をずっと愛し影から守り、彼女のピンチでは助け、彼女の頼みを聞き、実力は無いけれども常にルリ子を助ける。最後に彼女の魂を救って死んでいく。死ぬほどかっこいいおっさんだった。

 保安官(香川照之):保安官だが長いものに巻かれる男。源氏平氏を渡り歩き二重人格になりながらも生き残る。最後の最後で得意の死んだフリで生き残り、お宝を全部独り占めにするために、清盛を殺すことに夢中になっているルリ子を射殺する。しかし、その後、ルリ子の幼馴染トシヲに殺されてしまう。こう書いちゃうとただの小悪党何だが、二重人格の演技やらその独特の言動やらで異様な存在感を放っていた。しかし、堺、佐藤、香川と新撰組!のメンバーが結構そろってるよなあ。

 全体的にどこかニトロ臭の漂う映画ともいえる。
 こうなると、もう次やるには、刃鳴散らすを映画化するしかねえよ。