アルスラーン戦記11巻
結局買って読んだ。
以外なことに昔の田中芳樹の片鱗を見た。というか、たしかにアルスラーンだなこれは。
アルスラーン戦記に対する俺の評価はと言うと、創竜伝なんかよりははるかに面白いが、銀英伝に比べるとつまんないと言ったところ。
最近の田中芳樹の本は創竜伝みたいにつまんない社会批評ばかりで内容は全然つまんないか、ベタで三流で陳腐な内容だがそこそこ面白い薬師寺涼子シリーズみたいな個人のストレス発散本か、個人趣味に傾倒した歴史作家ぶった中国物しかなかったわけで、中国賛美と現代政治への個人的不満をぶちまけることの出来ない世界観での物語を書かせると、かつての田中芳樹が戻ってくるのだなと感じさせてくれた。もういいよ、こいつは架空歴史物とかばかりかいてればさ。七都市物語も他人に書かせずに自分でかけ。
アルスラーン戦記が好きな人でもかつての田中芳樹が好きな人でもかなり満足行く内容ではないだろうか。
アルスラーンやマヴァールなんかは、三国志などに田中芳樹がインスパイアされたんだなと思わせる部分があちこちに見られる作品で、彼自身のそれらに対する憧憬が随所に見られそれが20年前の田中芳樹と現在の田中芳樹の中で差異が少ないと思われる。
政治や中国賛美に対する部分は20年前より今の方が顕著になっている。というか、まだ若手だった時代と違い、思い抱いてる部分にオブラートをかけなくなったと言うのが正しいかな。
だから、その手の話は内容的に面白くても、田中芳樹の異常なまでの中国賛美や社会政治への不満などが有り余るほどに目に付くのだ。見てて気持ち悪いくらいに。
架空ペルシャの世界ではそれらが入り込む余地が無く、また、昔から憧れを抱いていた三国志のような軍記物であるから、彼の過去と今の過去がそれほど差異なく一致する。そのため、今アルスラーンを書いてもかつてのような論調で書けるのだろう。
内容的には平行して走る物語を書いているのでどっちかと言うと短編集に近い。いや、銀英伝の頃に近いか。1章1章が戦争でもない限り同盟、帝国と交互に繰り返されたように。ただ、アルスラーンのほうは勢力が2ヶ国ではないので、更に分散の傾向が強い。
しかし、相変わらずアルスラーン身辺の話より、ギスガールやヒルメスなど、パルス国外の話のほうが面白い。
特に8巻以降はその傾向が強い。7巻までは王都奪回が目的だったため、アルスラーン主体で、アルスラーンがのし上がっていく話だったが、8巻以降は安定したアルスラーンは非常につまんない。しかし、落ちぶれたギスガールがボダンとの抗争の挙句にマルヤム王国のっとるところとか、ヒルメスが地位を高めてまた落ちぶれて、またのし上がるとか、そういう部分の方が断然面白い。田中芳樹もその辺がわかっているのか、11巻の中の5章の内2章は他国の話になっている。
いや、アルスラーンってある意味理想の王様というかそういうイメージがあって見てて面白くないんだよね。おそらくああいう中世に生きるとしたらああいう王様の国で暮らすのが幸せなんだろうけど、それを俯瞰で眺める物語になると、やっぱり野心にあふれた人物の方が魅力的だ。アルスラーンはいいひと過ぎてそれが長所でも欠点でもあるのだろうけどそこが魅力に思えない。コンプレックスの塊であったヒルメスとか屈折してる野心家ギスガールとかのほうが見てて面白いのだ。あと小心者のラジェンドラとかね。
まあ次の12巻は5年後だろうな。
ところでずっと思ってたんだが、レイラって誰よ。
10巻から読み直す必要があるな…。