鬼切り夜鳥子(ぬえこ) 〜百鬼夜行学園〜

 ゲームデザイナーの桝田省二さんの初の小説。
 天外2、リンダキューブなど、魅力ある物語で人を魅了することの出来る人なので、初の小説というのはちょっと意外。
 えっと、扉絵は今風の萌え絵とはちょっと違うか。目も小さいけど、好きな絵だなあ。俺屍の絵を書いていた人らしい。しかし、ケツ丸出しだったり、挿絵にも裸があったりと結構エロい絵が多い。買ったのは発売日の6月30日なのだが、店員さんに探してもらって手渡された時ちょっと恥ずかしかった。これ、何の罰ゲームだよ。
 内容は、リンダのようなサイコ風味があるわけでもなく、天外2後編のようなブラックジョークもパラノイアのようなおっさんも出てこない。いたってまともなボーイミーツガール。意外というほどでもなく、リンダも基本はボーイミーツガールだったわけなので、得意な分野なのかも。まあ、少年が会った少女は幼馴染ではなく、昼子を先祖に持つ鬼の一族だったのようだが。
 ヒロインの駒子にヒーローたる先祖の夜鳥子が乗りうつり、5匹の鬼を封じるために、幼馴染の久遠(くどう)が巻き込まれるという話。
 鬼に関しては話すとネタバレになるのであまり言わないが、話のテンポが非常にいい。この手の話は多いが、大抵、1匹か2匹を退治するのに1冊使うケースが多いのだが、この話は1日に1匹、1冊の間に1週間を経過させてきっちり始まりから終わりまで描く。とはいえ、物足りないということもない。書くべきことを書いて省くとこは省いている。これは最近の漫画家やジュニア系小説家が出来ていないことだろう。メリハリがあるというのはこういう作品なんだろうね。
 ちょっとだけ気になるのは、お約束に乗っ取って書いているということ。これは別にいい。駒子が必ず鬼から走って逃げる。これもお約束。夜鳥子が必ず敵を倒す。これもお約束。これはかまわない。もともとのコンセプトが捜索→逃げる→反撃の繰り返し×5という話だ。もっとも形を変えつつ3回行い、4回目あたりで少し変更して、ラストでどんでん返しというきっちりとした変化があることと話が短めなので気にならない。ただ、プロットも順序が決まっていて、逃げるシーン→過去に戻って逃げるまでのシーン→逃げるシーンの続き→バトルという流れが必ず来る。これも別にいいのだが、この過去の冒頭部分で後半駒子がどういう目にあうかということがちらりと書いているケースが多い。これがちょっとだけ気になった点か。どういう怪異が襲ってくるかという部分はキモではないとはいえ、話を盛り上げる要素である。これを先に少しでもばらすのは問題があると思った。
 主役格の人物は4名いるのだが、全員が全員個性的で、とくに台詞のあとにだれが言ったか書いてなくても誰がしゃべったか大体わかる。この辺はゲームで培ったテクニックなんだろうなあ。ちなみに、キャラクターを中心とした物語を書く場合に必須の能力である。これが出来てない人の作品は多く、そういう人の作品は大抵テンポが悪い。なぜなら、台詞と台詞の相手に、かならず〜と言ったという行が入るからだ。これは入らないといっているわけでなく、場合によって使い分ける必要があるものの、こういうテクニックがあれば会話だけで話を進めるということも出来るし、逆にキャラのしぐさなどを描写しながら進めることも出来るわけだ。
 何でこんなことばかり書いているかというと、最近自分の文章がおかしすぎるので、この手の小説をかくHowTo本を読み始めた。そういうのを読むと、いろんな点に注目して読めるようになってきたわけで。ただ、内容を理解して楽しむのも当然面白いのだが、どういう話構成になっているのかとか、どういうテクニックをつかっているのかとか考えながら読むとそれもまた面白い。
 なんか、変な解説がついたが、普通に面白い作品だと思う。が、これって飛びぬけた部分もないので桝田省二さんのファン意外は読む必要がないかもしれない。良くも悪くもどこかで見た作品だと思う。ただ、構成のうまさとテンポの良さから、さくっと読めるのは間違いない。
 桝田さんってことでもうちょっと濃い作品を期待したのだが、その部分は期待はずれだった。